UPHOLSTERY STORY
張り替え
愛着の文化をつくる
静岡県焼津市の海にほど近い場所に、SOURIREの工房があります。
椅子職人を志したのは23歳のときでした。
実家が椅子張り工房を営んでいたこともあり、子どもの頃から工房は身近な存在でした。
中学生の頃はよく遊びに行っていましたが、その時の印象はというと、
「なんだこの匂い。臭いなあ。」
今思えば、木材や革、ウレタンなど、家具を作るための素材の匂いです。
だから、家具づくりとの出会いは決して格好いいものではありませんでした。
むしろ何気ない日常の中にあったものです。
それから長年にわたり、数多くの家具メーカーや有名ブランドのソファ張り替えに携わってきました。
張り替えの仕事は、新しい家具を作る仕事とは少し違います。
完成品の裏側を見ることができる仕事です。
どのような構造で作られているのか。
どんな素材が使われているのか。
職人がどんな工夫をしたのか。
分解して初めて見える景色があります。
優れた家具には必ず理由がありました。
その理由を学び続けた年月が、今のSOURIREの土台になっています。
そして、その経験の積み重ねから生まれたのがSOURIREオリジナルソファです。
もちろん誰かの真似ではありません。
長年の張り替え仕事で培った技術と知識。
数えきれない家具から学んだ経験。
それらを自分なりに形にしたものです。
僕にとってのスタンダードとは、流行や価格で決まるものではありません。
ただ単純に、
「こういう家具を作りたい。」
そう思って作ったものです。
言ってしまえば、自画自賛の商品です。
でも、自分自身が欲しいと思えないものを、お客様にすすめることはできません。
SOURIREの定番は、僕自身の理想形でもあります。
以前は、他にはないものを作ろうと必死でした。
デザインを考え、意匠登録も取得しました。
けれど今は考え方が変わりました。
新しいものを追い続けるよりも、定番を磨き続けたい。
10年先も。
20年先も。
50年先も。
変わらず愛される家具を作りたい。
それが今のものづくりの原点です。
そのために私たちはアンティークチェアやアンティークソファを分解し、研究しています。
半世紀以上使われてきた家具はなぜ残り続けているのか。
馬毛。
麻テープ。
パーム。
天然素材だけで構成された家具が、驚くほど長い年月を生き抜いています。
一方で時代とともに素材は進化しました。
釘はタッカーへ。
馬毛や黒綿はウレタンフォームや樹脂綿へ。
価格や生産性、供給の安定など、そこにはさまざまな理由があります。
だからこそ思うのです。
昔の職人たちが残した知恵と、現代の技術を組み合わせれば、もっと長く使える家具が作れるのではないかと。
私たちが目指しているのは、捨てられない家具です。
飽きられない家具です。
そして世代を超えて受け継がれる家具です。
そのための選択肢が張り替えです。
壊れたから捨てるのではなく、直しながら使い続ける。
手をかけるほど愛着が深まる。
そんな文化を、焼津の小さな工房から伝えていきたいと思っています。
その考え方は、家具に使う素材選びにも表れています。
特に革は、私たちにとって重要な素材のひとつです。
より気持ちいい質感を求めて。
より長く使える革を求めて。
SOURIREオリジナルヌメ革は生まれました。
オリジナルの革を作りたい。
そう思い立ち、革屋さんやタンナーへ何十件も電話をかけました。
しかし現実は甘くありませんでした。
小さな工房の話を聞いてくれるところはほとんどなく、何度も断られました。
半ば諦めかけていた頃、一人のタンナーの会長が親身になって話を聞いてくれました。
「SOURIREさんのオリジナルを作りましょう。」
その一言がすべての始まりでした。
試作は何度も繰り返しました。
革の表情。
触れた時の質感。
経年変化の美しさ。
納得できるまで調整を重ねました。
そして完成したのがSOURIREオリジナルヌメ革です。
自然な艶。
血管の跡や毛穴。
傷やシワといったナチュラルマーク。
革同士が擦れた時に鳴るキュッキュッという音。
自然素材ならではの豊かな表情を持った革です。
今はネットで簡単に物が買える時代です。
仕事もメールや電話だけで完結できます。
でも、それだけでは伝わらないものがあります。
素材を作る人の想い。
技術。
哲学。
やはり会って話を聞きたい。
そう思い、静岡から車で約6時間。
タンナーのもとへ向かいました。
初めて会ったとは思えないほど、不思議と通じるものがありました。
社長は革づくりへの想いを惜しみなく話してくれました。
原皮のこと。
タンニンのこと。
製造工程のこと。
オリジナル革のレシピのこと。
細かな資料を見ながら語られる言葉には、ものづくりへの誇りがありました。
時間を忘れるほど話は尽きませんでした。
工程を知れば知るほど、一枚の革を無駄にできなくなります。
その時に聞いた言葉が今も心に残っています。
「革の隅から隅まで使える革づくりをしたい。」
その想いに共感した私たちは、ソファだけでなくバッグや財布も作るようになりました。
端切れを捨てたくなかったからです。
最後まで使い切りたかったからです。
それもまた、素材への敬意だと思っています。
SOURIREの製品には、すべてストーリーがあります。
なぜこの素材なのか。
なぜこの形なのか。
なぜこの仕様なのか。
どれだけの試作を繰り返したのか。
どれだけの人の手と想いが関わっているのか。
その積み重ねがひとつになって、ようやく製品として完成します。
私たちが作りたいのは家具ではありません。
革製品でもありません。
人と時間をつなぐものです。
使うほど愛着が深まり、
修理しながら長く付き合い、
いつか誰かへ受け継がれていく。
そんな「愛着の文化」をつくること。
それがSOURIREのものづくりです。
「捨てるためではなく、受け継ぐために作る。」


